竹内銃一郎のキノG語録

なんて太っ腹な! フリッツ・ラングの「死刑執行人もまた死す」を見る。2015.12.05

前回のものを読み直したら、馬名を間違っていたので修正。なんで間違えるかな、大事なキモのところを。書き終わった高揚感の中で書いたからか?

長い間HDDに入れっぱなしにしていた「死刑執行人もまた死す」をようやく見る。ずっと気になっていたのだが、上映時間が2時間以上と長く、それで後回しにしていたのだ。これが! 想像を超える面白さで、映画史に残る傑作という評価に偽りはない。上映時間の134分間、ずっと画面から目を離すことが出来なかった。まさに釘づけ。

舞台はナチの占領下に置かれたチェコのプラハ。ナチの副総統であるらしい、どこかゲイの匂いのする男がこの町に乗り込んできたところから物語が始まる。見るからに陰険かつ傲慢なこの男(死刑執行人)が、どんな極悪非道のかぎりを尽くすのかと思いきや、なんと登場して5分と経たないうちに暗殺されてしまう。

そこから、犯人探しにやっきとなるナチと、彼らに抵抗する市民たちの攻防が始まるのだが、互いの知恵比べがこの映画の見どころ。ナチは、市民の中から400人を逮捕・拘禁し、犯人が自首するか、あるいは犯人逮捕につながる情報を提供しなければ、なんの罪もない400人の市民を次々と殺すと表明する。詳細なストーリーは、例によって、ウィキ等で確認していただくことにして …

戦時下の話でナチが登場するとなれば、当然のように重く暗くなるはずだが、そうはならない。それは娯楽映画の王道ともいうべきサスペンス仕立てになっているからだが、話の運びがというより、厳密に構成されたカットの積み重ねに心地よいリズムがあって、それがハラハラドキドキさせたり、時には笑いをもたらすからだ。さすがフリッツ・ラング! 最後の30分ほどは、まるで大衆娯楽映画の代表である、松田定次が撮った「旗本退屈男」のように、アリエヘンことの連続になるのだが、そんなことは映画を「映画」として成立させるためには、ドーデモいいことなのだと、そう思わせる。

なんて太っ腹な映画だろう!

 

 

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