竹内銃一郎のキノG語録

「いいねえ、品のないのが」by石原慎太郎2014.02.12

塩田明彦の新刊「映画術」に感じ入る。
塩田さんとはその昔、大和屋宅で二度ほど会い、大和屋さんの本の制作過程でも会い、それからわたしの芝居にも何度か足を運んでくれた。もちろん、だから褒めるわけではない。
映画美学校での講義を活字にしたもので、対象は俳優志望の若いひとだったようだ。ここで書かれている(語られた)ことが、ちゃんと受講生に受け止められているとしたら、はっきり言ってわたしの大学の学生たちより相当レベルが高い。
映画とはどう見たらいいのか、どういう俳優がいい俳優か。きわめて高度な内容が平明なことばで語られている。
例えば、成瀬の「乱れる」は冒頭からなぜ見ているわれわれをハラハラさせるのか、とか。
映画と演劇を同じ土俵に上げて比較するのもアレだが、どうなんだろう、ひとつの台詞、ひとつの動き、ひとつのシーンがどうすれば成立するのか、彼みたいに詰めて考えてる演劇の演出家なんて日本にはいないのではないか。塩田さんは動線という言葉を使っているが、芝居でいうとミザンセーヌというヤツ。成瀬はどういう動線を考えているかとか、溝口は「西鶴一代女」で男と女をどのようにして「越えてはならない一線」を越えさせているかとか。内容はもちろん、塩田さんの語り口自体がスリリングでワクワクさせられる。
こういう講義をしようにもねえ、大半の学生は興味もたないからしなくなってしまったんだよねえ、わたしは。
劣悪なわが国の演劇の現状。先日も、知り合いの書いた戯曲が上演されることになったのだが、それについては演出家からいろいろ書き直しの要求が出て、というからその具体を聞いたら、まあ、ほんとアタマ悪くて。そうじゃないかなと思っていたらやっぱりカスだったという ……
美空ひばりのことを、「いいねえ、品がなくて」と褒めたのは石原慎太郎。「品がないって言ったって、下品じゃないんだな。ぎりぎりのところ。そこが一般庶民をひきつけるんだな」
性格は変えられるけど、品格ってやつは変わらないといったのは小津安二郎。そうか、前述の某演出家、アタマも悪いが品格が最低なんだな、きっと。もちろん、直接会ったわけではないのだが、なんか不必要に偉そうで。

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