女優たち(P・アークエットと桜町弘子) この夏に見た映画から①2016.08.31
わたしはきわめて真面目な人間なので(?)、血=暴力、クスリ、セックス、タトゥーと反社会的要素だけで成り立っているかに思われる「トゥルー・ロマンス」は、本来ならば敬して遠ざける類の映画のはずだが、にもかかわらず、固唾を飲みながら最後まで見てしまったのは、脚本を担当しているタランティーノの小洒落た(ということは小生意気な)台詞の連発が楽しく、そして、ヒロインを演じたパトリシア・アークエットの魅力に、すっかり参ってしまったからだ。
ひょんなことから、大量のコカインを入手してしまったパトリシアの夫。それを売りさばくべく町を出るふたりと、本来の所有者であるマフィアの連中との「追いつ追われつ」がこの映画のすべてといってよい。ハイライトは、ホテルの一室にひとりでいたパトリシアが、殺し屋に襲われるシーン。夫の居場所を吐かないと殺すゾと言われても、どこまでもシラを切る彼女に降りかかる暴力の雨あられ。バスルームに追い詰められ、半死半生、血みどろになりながら最後の力を振り絞って反撃に転じる、元コールガールの彼女の凄まじさ・たくましさ、それが高貴の匂いさえ放って、たとようもなく美しいのだ。
「殺したいほど惚れてはみたが~」とは、北島三郎歌う「車夫遊侠伝 喧嘩辰」(監督 加藤泰)の主題歌の歌詞の一節である。前述の「トゥルー・ロマンス」はタイトル通りの「純愛(殉愛)映画」だが、こちらも同様で、なおかつ、ヒロインを演じる桜町弘子の過激さもパトリシアに負けず劣らず。
内田良平演じる車夫・辰が、桜町(きみ奴)に惚れてしまうキッカケが面白い。彼の人力車の客となった彼女が、走行中になんのかのと指示を出すのがしゃくに障り、辰は人力車ごと、彼女を橋の上から川へと放り投げてしまう。しかし、重い人力車を追いかけるように落下していく、彼女の美しさ(淫らさ?)にキュンとなってしまい、放り投げたあと、辰は慌てて川に飛び込み彼女を助けて、土地のやくざの大親分のもとへと送り届ける。大親分は、きみ奴を3年越しでくどき落とし、この日やっと身請けすることになったのだが、辰はそれを知らず、彼女と結婚したいと言い、大親分が「お前の了見はどうや」ときみ奴に問うと、彼女は辰に「うちはひとのオモチャの芸者やけど、ええの? 金襴緞子に角隠しの衣装で、三々九度の結婚式を挙げてくれる?」と問う。辰が首を縦に振るのを確認した大親分、ほんなら今すぐ祝言を挙げぇと言う。なんて太っ腹!
簡単な祝言をすませ、ふたりは本来なら大親分と行くはずの有馬温泉へ、辰の人力車で向かう。先の主題歌をバックに、超ロングで捉えるこのシーンが美しい。しかし、宿に着いた後、大親分と彼女の関係を知らされて、辰は冗談じゃねえと怒り、彼女を親分のもとに送り返す。しかし、親分がそれをすんなり受け入れるはずがなく …。時が経ち、すったもんだの挙句、辰ときみ奴は、親分のとりなしを受け入れ、再度の結婚式を挙げようとしているところへ、警官隊が来る。親分が川にダイナマイトを仕掛けて大量の魚をとったというので、逮捕に来たのだ。そうはさせじと警察署長に食って掛かる辰。とめる親分に、親分が捕まるっていうのになにが結婚式だ、と辰。それを聞いて、金襴緞子を身にまとって控えていたきみ奴、つかつかと辰のところまで歩いて行って、彼の頬を一発。「白無垢に角隠しは、生まれたまんまの裸になって男のところへ行くという女の覚悟や、それなのにあんたは、結婚式なんかいつでも出来ると粋がって」ともう一度、男の頬を張り、こんなもんこっちから願い下げやと、角隠しをはぎとっての、切ないがカッコいい啖呵を切る。これで再びふたりの結婚はご破算になるのだが、三度目がある。刑務所に入った親分が出所し、再びふたりをとりなして、さて結婚式をというところで、対立していた組の殺し屋の、親分を狙ったピストルの弾が、辰が可愛がっていた車夫の弟分に命中。当然のように、辰はそのかたき討ちに出かけんとするが、きみ奴、今度はとめない。あんたが死んだらわたしも死ぬから、と。この後、感動的なラストシーンが用意されているが、そこまでは書かない。
「トゥルー・ロマンス」のストーリーは、まことに単純明快だが、こちらは、ふたりを多彩な人々が取り巻いていて、彼らが織りなすサブストーリーも見ごたえ十分。ワタクシ的には、「緋牡丹博徒 花札勝負」と「遊侠一匹 沓掛時次郎」が加藤泰の代表作だと思っていたが、今回が初見のこれも、それらに肩を並べる傑作だ。