竹内銃一郎のキノG語録

お前は天津うたぐり協会の会長かっ! 「偽日記」より2017.03.30

ひとつの謎が解けた。といって、別に大したものではなく。ブックオフに売った大量の本の中に、写真家・荒木経惟の著書が10冊近くあったのだが、なぜそんなに持ってたの? という謎がこの度ようやく …

忘却の彼方から掘り出された数多の原稿・台本の中から、「偽日記(仮題) 準備稿」を手に取ったのは、真っ赤な表紙に惹かれたからだった。手に取った時点ではそれがどんなものなのか記憶になかったが、最初の2、3頁を読んで、ああ、あれかと思い出す。黒木(和雄)さんから、「原田(芳雄)さん主役で」と依頼されたものだ(80年代半ば?)。内容は、原田さんを連想させる下田康雄という俳優の或る一日を、彼が小樽で過ごした「特別な一日」の回想と撮影中の映画の一場面、過剰な(?)性的妄想等々を織り交ぜながら描く、というもので。これが意外に面白い。少なくとも、何回か前に触れた「紙風船」よりはワンランク上というのがわたしの評価だが、それはともかく。この映画のタイトルは、前述の荒木経惟の写真集から採られたものだったのだ。おそらく、黒木さんから荒木氏のそれを見せられ、ここからなにかインスパイアされるものがあれば …との示唆があり、それでついでに、他の荒木氏の著書も買い求め、ということだったのだろう。しかし、残念ながら映画化ならず。定かな記憶ではないのだが、最初は乗り気だった原田さんが、途中から引き気味になって、それはあまり公にされたくない個人史に触れているので …ということではなかったか。

昨夜。前回触れた鈴木志郎康の詩論集「穂先を渡る」(1980年)と詩集「少女達の野」(1989年)を読む。彼の評論にも決して小さくない影響を受けていることに今更ながら驚くが、やはりというか、先のシナリオなど氏の詩の影響大なることは明らかで、それは前回書いたような、台詞のリズムといったもの以上に、氏の改行の方法を場面転換に取り入れているのだ。唐突な視点の転換、時空間の大胆な移動、思わぬ出会い等々が、説明抜きでなされている。まあ、氏の作品に限らず、詩の改行とはそもそもそういうものなのだが。因みに今回のタイトルは、劇中に挿入される撮影中の映画の一場面、麻薬を売らんとしている康雄演じる男が、相手のやくざの一挙手一投足にいちいち注文をつけるので、苛立ったボスが男に投げつける苛立ちの台詞である。

ついでだから最後にブックオフの悪口を。荒木経惟の10冊近くを含んだ(澁澤龍彦10冊以上も含む)200冊の買値は、以前にも書いたように、千円に遠く及ばない雀の涙だったのだが、あとでAmazonで調べてみると、いずれの写真集も古本屋では1500円以上で売られており、中でも「我が愛、陽子」は最安値でな、なんと、1万円以上もしているのだ。これが知っててつけた値段、つまり、ぼったくりならまだ許せるが、そうではなくて、値付け担当者の無知が招いた結果なのだ、きっと。だから腹が立つ、ブックオフ!

一覧