なぜわたしが何度も途方に暮れたかと言えば … 「マジカル・ガール」に触れる②2017.09.26
なにも見えない黒塗り(?)の画面から、2+2=4は、いかに時代や社会が変わろうと、永遠不変の真実だ、と静かに語る男の声が聞こえ、その同じ声の主が「バルバラ、前に」と、打って変わった叱声を。明るくなると、声の主と思われる中年男と、バルバラという名であるらしい美少女が、向かい合って立っている。学校の教室。「なにをしていた? いましなければならないほど大事なことか? その手の中にある紙切れにはなにが書いてある? 読んでみなさい」「読まなければいけませんか?」「そうだ」(ここで前回のタイトルにある殺し文句が)「仏頂面で残念な顔」「それはわたしのことか」「そうです」(生徒たちの笑い声)「その紙を見せなさい」「無理です」「渡しなさい」。画面にはそれぞれの片手のみが映し出され、握られていた少女の指が開かれると、なんと、中にはなにもない。oh マジカル・ガール! さあ、彼女の物語の始まりだと思いきや、一転、日本語の軽快な曲が流れ(あとでそれは日本のアニメ「魔法少女ユキコ」(架空)の主題歌であることが明らかにされる)、それに合わせて、さっきのバルバラよりも二つ三つ年下かと思われる、負けず劣らずの美少女が、部屋でひとり踊っている。と、なにが起きたのか、急に崩れるように倒れ、そこに彼女の父親とおぼしき男が現れて …。映画「マジカル・ガール」の、これが冒頭の5分ほど。
眼前の映画に対して、観客はみながみなそれほど受け身であるわけではない。多くの者は、いま目の前で進行しているストーリーを、ただ追いかけながらというより、次にこうなるのではないかと予感を働かせながら見ているはずだ。わたしのように、そういう種類の仕事をしている者はとりわけそうで、しかし、往々にしてそんな<先手>が仇になる。この映画も、冒頭にバルバラの手品(?)を見せられて、先にも記したが、てっきり彼女中心のお話だと思い込んでしまったので、次に登場した<ダンス少女>もバルバラだと思い込み、だから、しばらくなにが起こりつつあるのか手探り状態に陥ってしまったのだった。
主な登場人物は、バルバラとダンス=アニメ少女のアリシア、アリシアの父・ルイス、それに、「仏頂面~」のダミアンの四人。物語は、ルイス父娘のお話から始まる。それは、白血病で余命いくばくもない娘のために、彼女がほしがっている<魔法少女ユキコ>の高額な衣装を買うために金策に走り回るルイスを追いかけるものだが、しばらくすると、なんの前触れもなく(?)30代半ばと思われる夫婦の話へと切り替わる。その唐突さにまたもやわたしは、夕暮れの見知らぬ田舎道にひとり置き去りにされたかのような心持ちになってしまったが、物語の次なる展開予想などせず、TVの画面に映るもの・聞こえることだけに集中していればそんなことにはならなかったはずだ。唐突に登場した夫婦の夫は妻のことをバルバラと呼んでいたのだから。そう、バルバラと呼ばれる情緒不安定な美人妻は、冒頭に手品を見せた美少女の20数年後の彼女だったのだ。
次々と起こる、唐突な出来事、思いもよらぬ出会い。金策に尽きたルイスは、宝石屋から宝石を盗もうと、ショウウインドウのガラスを割るべく、大きな石を持った手を振りかざした途端、上からなにやら怪しげな液体が降ってきて、それはなんと、先の30半ばとなったバルバラの吐瀉物で。それをきっかけにふたりは急接近し、物語は一気に加速する。と思ったら、これまた唐突に場面は刑務所へと変わり、しばらく、そこを出所した老人へとお話の中心も移動する。出所する際、刑務所の精神科の女医に、老人はもうしばらくここにいたいといい、女医がその理由を尋ねると、「バルバラに会うのが怖い」と彼は答える。この時も、わたしは、あのバルバラと、老人が語るバルバラとが一致せず、物語も半ばを過ぎた今頃にどうして身分不詳の人物を登場させるのかと、またまた途方にくれたのだったが、この老人、実は冒頭に登場した「仏頂面~」のダミアンだったのだ。ああ、なんと変わり果てたその姿! (続く)