「モナ美」は「銀河鉄道の夜」を下敷きに … 「耳ノ鍵」解題⑩2018.02.15
「モナ美」は当初、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」のような、時空を旅する話をと考えていた。それが、2000年の公演というところから、20世紀の百年の間に起きた事件のあれこれを、2時間の上演時間の中に全部詰め込んでやろうという壮大な構想へと発展し(?)、けれども、あれこれ考えているうちに、そんな容量が自分にはないことにハタと気づいて、ふたりの女性の数十年にわたる紆余曲折の友情物語という、ありがちなところに納めたのだった。
久しぶりに読み直してみて、「銀河鉄道の夜」の痕跡が残っていることに気づく。例えば、登場人物の設定などに。モナ美には父がいないこと、そのために家が貧しいこと、親友のトモ世は裕福な家に育ち、勉強も出来る優等生であること、つまり、モナ美は「銀河~」におけるジョバンニの、トモ世は彼の親友のカムパネルラの設定と同じなのだ。劇は、モナ美は風邪をひいて寝込んでる弟のために牛乳を買いに出かけていて …、というところから始まるが、これは明らかに「銀河~」の冒頭部をなぞったものだ。
「モナ美」は八つの場面から成っている。S1は、彼女たちは小学校高学年の設定。モナ美の弟が交通事故で亡くなる。S2はそれから十年後。舞台は、モナ美が看護師として働いている病院の社員寮の一室と、大学の法学部生であるトモ世のアパートの一室と、二分されている。トモ世の友人で、学生運動をやっている漆畑がデモで警官隊と衝突し、ケガを負って彼女の部屋に転がり込んでくる。病院に行くと警察に通報されると言うので、トモ世はモナ美に電話して …。S3は、その半年後。漆原の就職内定を祝うために、モナ美はトモ世の部屋にやってくるが、後にふたりの関係にひびが入るきっかけとなることが起こり …。S4はその十数年後。場所は北海道の地方都市にあるキャバレー。モナ美は芸人になっていて、今夜ここでトリオ漫才をやるのだ。そこへ、ふたりの共通の友人からモナ美の消息を聞いたトモ世が、はるばる訪ねて来る。久しぶりの再会。モナ美は、トモ世が漆原と結婚し、子どももいることを知る。S5は、それから十数年後。漆原とトモ世の家。モナ美は立川で輸入家具を扱う店のオーナーになっている。S6はその一か月後。場所はモナ美が自宅とは別に借りている、恵比寿のマンションの一室。依頼した興信所の調べで、ここで息子とモナ美が密会していることを知ったトモ世が、ふたりを別れさせるためにやって来る。そして、モナ美との結婚を宣言する息子に、このひとは昔、あなたのお父さんの子どもを産んでいるのだと、トモ世は衝撃の事実を明らかにして …。以後、ふたりの関係は絶たれる。S7はそれから十数年後。カラオケボックス。小学校のクラス会から流れて来た面々。そこでトモ世はかってのクラスメートから、モナ美は三年前に子宮癌で亡くなっていることを知らされて …。そしてラストのS8。季節(とき)は、ふたりが初めてことばを交わした、幼いあの日に遡り …。