落涙記 「耳ノ鍵」を終えたあと、「モナ美」のビデオに …。2018.03.06
「耳ノ鍵」、楽しく閉幕。これでもう少しお客が来ていたら、もっと大喜びするのだが …。
前回の「チェーホフ流」の楽日のラスト、「ワーニカ」を演じた若尾さんの熱演もあって、思わず泣いてしまったが、今回の楽日も二度泣いてしまった。一度目は「少年巨人」の終盤、出演者の松本、福谷、武田諸兄(姉ひとり?)の好演もあって、初演時のあれこれ、とりわけ数年前に亡くなった沢田情児の思い出が甦ってきて、涙が止まらなくなってしまったのだ。二度目は最後に置いた「モナ美」のこれまた終盤。モナ美とトモ世が互いに絶交の言葉を放って別れる間際、トモ世が、モナ美の亡くした子どもは「男の子だったの、女の子だったの?」と聞き、モナ美が「女の子よ、トモ世って名前の」と応えるところ。これを書いた時も、書きながら泣いてしまったところだが、これまた演者の武田さん、林田さんがあまりに切なく、ボロボロと泣いてしまった。これを見るのもこれが最後ということも手伝ったのかもしれない。(あ、いま気がついた。武田アヤ美、林田あゆ美がモナ美を演じたんだ!)終演後の打ち上げで。松本くん率いるnextageが5月に上演する「みず色の空、~」の話になり、20年ほど前にアイホールで上演した「みず色の空、~」のビデオがあるけどと言ったら、ちょっと見せて下さいという話になり、そうだ「モナ美」のビデオも …という話になって。今朝、久しぶりにカメレオン会議が上演した「モナ美」初演のビデオを見る。
想定はしていたが、モナ美を演じた広岡(由里子)さんの芝居の上手さに改めて舌を巻く。とりわけ、自分の台詞がないところ。モナ美が抱えている深い孤独を語らずして語るのだ、それもさりげなく。思わず吹き出してしまうギャグっぽい動きも見事だが、その多くはわたしの指示によるもので、しかし、先の台詞のないところはほとんど彼女が考え、具現化したもの。前述のふたりの別れの場面では、トモ世の長台詞の間、ずっと林檎を手にしていて、それを時々両手でこねたり、匂いを嗅いだりしていて、トモ世が決定的な台詞を吐くと、それが両手からこぼれ落ちるという見事なオチをつける。そのオチは、見ていれば容易に想像できるものだが、だからこそ、少なからずの観客は、トモ世の切ない台詞を聞きつつ、モナ美の林檎がいつ手からこぼれ落ちるのかと心待ちにしていて、ついに、こぼれ落ちるのはその瞬間しかあるまいというところでこぼれ落とすので、観客は「ああ」と納得し、感動し、そして落涙するのだ。さらに。トモ世を演じた西牟田(恵)さんをはじめとして、みなとてもお上手で、まるで優秀なサッカーチームのゲームを見ているよう、守るべきところはみなで守り、攻めるべきところはみなで攻め、お互いサポートしあっていて、その見事なチームプレイに感心、感動、そして感謝までしてしまった。
ふたりの関係が途切れ、音信不通となって十数年後。いきなりカラオケで歌う「人生いろいろ」が流れ、そこにいるのは、久しぶりに同窓会で集まったトモ世の小学校時代のクラスメート達。愚にもつかぬ昔話で笑いあい盛り上がっているところで、その中のひとりからモナ美が3年前に子宮癌で亡くなったことが明らかにされ、トモ世はもちろん動揺するが、男子のクラスメートから一緒にデュエットしようと誘われて歌う歌が「ふたりの銀座」である。この選曲にまたわたしは泣かされて。途中で歌えなくなったトモ世はその場から逃げるように去って、どこへ行くかというと、モナ美と初めてことばを交わしあった場所と時間である。
ふたりは小学二年生。外から顔を覗かせていたトモ世を、モナ美は家の中に招き入れる。トモ世が家に上がる時、育ちのいい彼女は自分の脱いだ靴を丁寧に揃えて置く。と、それに対して、モナ美はというか広岡さんは、あらかじめ自分の靴をわざと乱暴に置いといて、トモ世のお行儀良さを見て慌てて直すという芝居で返すのだ! もちろん、それは彼女が考えたこと。なんという反射神経! トモ世がなにをしていたの? と聞くと、モナ美は亡くなったお父さんに手紙を書いていたと答える。「どうやってお父さんのところに届けるの?」「川へ流すの。川は海に通じ、海は空に通じ、空はお父さんのいる天国に通じているから」。それからモナ美は、ここまでの劇中で幾度も繰り返されてきた「リンゴ、食べる?」を口にし、トモ世が食べるというと、モナ美は紙に「りんご」と書いてトモ世に差し出す。トモ世は笑いながら、後で食べると言う、その紙を丁寧に折りたたみながら。そして、これはわたしの指示だが、今日は暑いと言ってモナ美は額の汗を拭い、そして強い日差しを遮るために右手をかざす。トモ世もそれを真似する、30数年後には別れる二人が同じ格好をしていることの切なさ。ふたりのまるで敬礼しているかのような可愛い姿を残して幕は下りる。「モナミ」と囁くタイトル不明のシャンソンをバックに、カーテンコールで集まった他の出演者も「一同敬礼!」。なんてチャーミングな終わり方だ! と、最後の涙がドバドバ。ああ、わたしはなんて泣き虫だ。