竹内銃一郎のキノG語録

「ノーナレ けもの道 京都いのちの森」を見る。「動植綵絵」メモ番外編2018.05.02

先日、思わぬ発見をした。スズメは、よちよち歩くのではなく、二本の脚を揃えてぴょんぴょんと跳ねて地上を移動するのだ。地上のスズメなどこれまで幾度も見たはずなのに。気づかなかったというより、関心がなかったのだろう。半年ほど前に携帯を<スマホ風>なものに変えて、以前は写真を撮ることなど稀であったが、操作が簡単になったのでよく撮るようになった。散歩しながら、あちこちの名刹などもカメラにおさめるのだが、データに残してあるものの8割強は、木々や花々そして鳥たちである。まさに動植綵絵。ほんの数年前まで、そんなもの、なんの興味も関心もなかったのに。われながら自らの変貌に驚く。知識は日々刻々と更新される。それは関心の移動でもあろう。以前は大ファンだった明石家さんまも、ここにきて、わたしの視界からすっかり消えてしまった。

今朝、NHKTVの「ノーナレ けもの道 京都いのちの森」の録画を見る。森のイノシシやシカを捕獲し、自らの手で肉をさばく、40代半ばの男性を中心にすえたドキュメンタリーである。彼の緻密にして真摯な仕事ぶりと、それを支える信念・哲学に感心する。そもそも、彼は運送の仕事で家計を支えている、だから、森の獣たちを捕獲し、食肉とするのは<仕事>ではなく、彼の<生き方>なのだ。子どもの頃から動物が好きで(人間が嫌いで)、動物とともに、動物のように生きたいと思っていた、自分が動物たちを殺し、食べるのは、動物たちもそうしているからだ、これが彼の生の哲学である。番組の終わりで、彼は大変な怪我を負う。捕獲したイノシシとともに崖から落ちた際、足首を骨折してしまうのだ。病院も可愛く明るい奥さんも、当然のように手術を進め、医者には手術しないと一生、歩行が困難になるかもしれないとも言われるのだが、彼はそれを拒否、動物たちは怪我を負い、たとえ三本足になってもなんとか生きているのに、自分だけが出術をするなんて、そんなことは出来ない、と。ああ、なという生き方! 時に、家族団欒のシーンを挟みつつ、罠にかかったイノシシを、相手の目を正視しながら棒で殴り倒し、そして、相手の痛み・苦しみを早く消し去るべくその体に小刀を刺しこむ(これが彼の流儀だ)、本来ならば残酷な目をそむけたくなるような、にもかかわらず感動を覚えさせる、そんなシーンを基調にして、彼の<生き方>を慎ましく追う、これは紛れもない傑作だ。ちなみに、ご存知の方もおられようが、「ノーナレ」とは、ドキュメンタリー番組にはつきもののナレーションがない、つまり、ノー・ナレーションの省略形である。

 

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