竹内銃一郎のキノG語録

この理不尽! 「シェイプ ~」と「ミク、僕だけの妹」を俎上にのせて …2018.12.11

先ごろのM1の審査員のひとりE・上沼に、トロ・Sの久保田とS・Mの武智が暴言を吐いた<事件>が、ネット上でちょいとした騒ぎになっているようだ。まあ、そのこと自体はドーでもいいマイナー・ニュースだが。そもそも「賞」というものは、いい加減なものというか(ノーベル賞も例外ではない)、「ひとつの結果」に過ぎず、過大に評価すべきものではないとわたしは思う。しかし、受賞するか否かでその後の人生が変わってしまうかもしれない対象者のことを思えば、審査・選考委員にはその結果に責任を負う義務があり、自らの審査・選考基準を明らかにする必要もある。<好き嫌い>以外に基準がないのだとしたら、あるいは、自らの基準を多くのひとが理解できるよう論理的に語ることが出来ないのであれば、そんな御仁は委員要請を断るべきだろう。という前置きは、去年のヴェネツィア映画祭やアカデミー賞をはじめ、信じられないほどの大量受賞をしたらしい「シェイプ・オブ・ウォーター」と、一週間ほど前に見たJOJOこと城定秀夫の快作「ミク、僕だけの妹」を材に、世の「理不尽」を明らかにするためのものである。

まずは両作のあらすじをザックリ。「1962年のアメリカ。発話障害のある女性イライザは、清掃員として働く航空宇宙研究センターでアマゾンの奥地から運ばれた不思議な生きものと遭遇し、…」これは雑誌「WOWOW」に掲載されている「シェイプ ~」の内容紹介で、次がネットで紹介されていた「ミク、~」のモノ。「工場に勤務する冴えない中年男・サバオは、友人も恋人もいない。唯一の生きがいは、毎日彼の帰宅を家で待つ妹のミクだけ。優しく可愛らしい、パーフェクトな妹・ミク。そんな彼女との暮らしに大きな幸せを感じるサバオ。しかし、幸せと同時に膨らみ続けるミクへの思い、それは決して兄妹には許されることのないものだった…。」

一読すると、両者になんの共通項もなさそうだが、さにあらず。前者では、不思議な生きもの=人間風の怪獣=アマゾンの神が、後者では二体のアンドロイドが物語の主軸をなす、ともにファンタジー仕立てになっており、「戦争」の腐臭が全編を覆っている点でも重なっている。前者が設定している1962年とはアメリカとソ連が一触即発状態にあった「キューバ危機の年」で、時代設定を近未来としている後者の主人公は毎日、「工場」で軍事機器関連の部品作りに精を出しているのだ。ともに「禁断の恋」を描いているところはさらに重要な共通項であろう。一方で、当然のことながら、両作には大きな違いもある。そのひとつは作品レベルの明らかな差である。前者は上記の内容紹介で事足りると言えそうな、物事すべてがこちらの予想通りに運ばれる、まことに退屈・単純な作品だが、後者は、中盤あたりから次に次々と驚くべき展開を見せ、最後は「希望のかなた」に見る者を連れて行ってくれる、これまでのJOJO作品とは<別口の>傑作なのだ。もうひとつの理不尽と言っていい差異、それは、おそらく4桁ほどの違いがありそうな両作の製作費である。切ない。なぜ退屈な「シェイプ ~」に膨大な製作費がつぎ込まれて、大量受賞のオマケまでつき、なぜJOJO映画に大手の制作者は見向きもせず、数多の傑作も一部のファンにしか認められないわけ? 分からん。しょうがない。大穴馬券を当てて城定氏にポンと差し上げようかな。一億円くらいならなんとか出来そうな気もするが …。(ワシはなにを書いている?)

うーん。「ミク、~」についてもう少し言葉を費やしたいのだが、この作品に関してはネタバレ出来ないのだ。なぜ? 「驚くべき展開」を明らかにしてしまったら面白さが半減してしまうからで、なぜ半減してしまうかと言うと、前述したように低予算で作られているから、ちょっとショボ過ぎる場面が少なからずあるからだ。まあ、それがゆえに「カワイイ」という感想も湧き上がるのだが …。

 

 

 

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