竹内銃一郎のキノG語録

幸せな夜 西本さん演出の「今は昔、栄養映画館」を見に行く。2010.09.04

わたしが30年ほど前に書いた「今は昔、栄養映画館」を見に行く。演出は文学座の西本さんという若い女性。出演したふたりも文学座のひとで、こちらはかなりのベテラン。正直なところ、あまり期待していなかった。これまでいろんなひとにわたしのホンを演出していただいたが、面白いと思ったことは一度しかない。もちろん、どこかの誰かさんのように、自作の変更は一切認めないなんて、そんな愚かしい観点から、面白くなかったと言っているわけではない。よく分からないのだ。なにが? そんなに高尚なことではない。なぜそこで彼は怒りだし、彼女は泣き出すのかといった、ごくごく素朴なことがである。書いたわたしが見て分からないのに、普通のお客が分かるわけがないじゃないかと、見終わって落ち込んでしまったことが、これまで何度あったことか。 それが、今日の芝居はとてもよく分かったのだ。幾度も笑った。そして、なんてうまく書かれた戯曲かと、感心してしまったわけです。最後にふたりの男がパンツ一丁になるのですが、ふたりのだらしない裸が笑えてまた切なくて。
西本さんの演出家としてのキャリアがどれほどのものかは知らない。でも、肝が座っているというのか、余計なことは一切しないし、俳優にもさせない。余計なこと? BGNとか照明の変化ですね。舞台装置もなきに等しいもの。劇場そのものがもう最高の装置になっておりました。エンディングに流れた音楽の選曲も文句なし。サンジャンのなんとかって古いシャンソンで、わたしも「眠レ、巴里」という芝居で使った名曲。終わってから演出家に聞いたら彼女の選曲で、トリュフォーの「終電車」で使われていたので云々カンヌン。やっぱりインテリでした。こういう若いひともいるんだなあと、竹内とても気分のいい夜でした。

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