竹内銃一郎のキノG語録

レイチェル、きみの言う通りだよ。2019.02.15

お昼過ぎ、三条会商店街までお散歩。途中、二軒あった大型書店に立ち寄ったので、到着まで一時間余かかってしまったが、寄り道しなければ40分ほどで行ける。このところ週に一度は行っているここは、わたしの好きなアーケード付の商店街。端から端まで徒歩10分くらいかかる長さも結構だが、以前に住んでいた伏見桃山の大手筋商店街に比べると、刺しこむ明かりが薄暗いのと、シャッターが降りてる店の割合がやや多めなためか、そこほかとなく漂う寂れてる感があって、それがわたしには好ましいのだ。

書店に立ち寄ったのは、橋本治の扱われ方を確認するためだったのだが、やっぱり、二軒とも彼の著書は見当たらず。これをどう理解すればいいのか。昔は、彼の著書だけの「コーナー」を設けた書店だってあったのに。確かにあれから30年余は経っているが、しかし、体調を崩していたらしいここ数年はともかく、ずっとそれこそ「また新刊!」と驚くほど、絶えることなく新刊を出していたのだ。決して「忘れられた作家」ではないはずだ、それなのに …。去るものは追わず? そうじゃないな、樹木希林のエッセーなんて目立つところに平積みになっていたのだから。分からん。

その思いをいっそう強くしたのは、何年振りかで手に取った「キネマ旬報」と「映画芸術」の今月号で、「2018年度ベストテン」の記事を見た時だ。並んでいる作品の監督、俳優のうち、半数は名も知らぬひとたちで、それにも驚いたのだが、さらに愕然としたのは、「映画芸術」でベストテンに投票している、おそらく映画評論家(自称?)であろうひとのうち9割ほどは、その名を目にしたことも耳にしたこともない方々だったのだ。多くはおそらく若いひとたちなのだろうが、若いから新しいものに飛びついてるわけではなく、結局、自分が現在所有しているボキャブラリーで間に合わせることが出来る作品を選んでるだけのことではないか、と思った。現に(?)、城定秀夫作品は、「ミク、僕だけの妹」が「映・芸ベストテン」の下位にあるだけで「キネ旬」の方は影も形もないんだもんな。また、キネ旬の方にはある「外国映画ベストテン」では、このブログでも触れたM・Mの「スリー・ビルボード」が一位となっていたが、「退屈」の一言ですませた「シェイブ・オブ・ウォーター」が2位だか3位になっていて、J・Jの「パターソン」もカウリスマキの「希望のかなた」も選外とは、いったいどういうことか。これは、単なる好き・嫌いの問題ではなく、彼らとわたしとの良し悪しの判断基準の違いがもたらした結果だろうが、ああ、この<ズレ>をいったいどう捉えたらいいのか。

「彼女の演技は不条理と滑稽の境界線にあり、かつユーモアにあふれている。たった一秒の間に何度も吹き飛ばされるような、すごい体験なの。」

上記は、「ロブスター」を撮ったヨルゴス・ランティモスの新作「女王陛下のお気に入り」のパンフに掲載されている、出演者のひとりレイチェル・ワイズが共演者のオリヴィア・コールマンについて語った言葉。おっしゃる通りです。きみに平伏。

 

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