竹内銃一郎のキノG語録

「女王陛下のお気に入り」は、わたしのお気に入り2019.03.03

先週水曜、「女王陛下のお気に入り」を再度見て、それなりにガッテン。この30年ほど、毎年100本を優に超える映画を見ているが、そのほとんどがWOWOW等で見たもの。改めて断るまでもなく、洋画は字幕を読みながら画面を見るわけだが、TVで見るのに慣れてしまった眼では、「女王陛下~」のように、カットが次々と飛躍的に変わる映画を相手にすると、字幕を読み切れないのだ。TVの画面なら、画も文字も<同一フレーム>に入るのだが、映画のスクリーンは大きすぎるため、画を追うと字幕が読み切れず、字幕を読んでると画の変化についていけずという切ないジレンマに陥って …。

不本意にも最初は読み飛ばしていた字幕を今度はガッチリ押さえることが出来たので、よく分らなかった人間関係も理解出来、また、画面の隅々にまで視線が届いたせいで、メインの3女優の高度な演技力に改めて感服させられた。とりわけ、没落貴族の身分から這い上がろうとするアビゲイルを演じた、エマ・ストーンに目を見張る。体技が凄いのだ。彼女自身もそれなりに気がある男前に言い寄られ、心も体もと彼女に迫る男を、振り切り、投げ飛ばし、蹴り上げる、その小気味良さといったら。まるでダンス! 多くは監督の指示によるものであろうが、色っぽいのに笑える、こんなラブシーンは見たことがない。先日、アカデミー賞主演女優賞をもらった、女王役のオリヴィア・コールマンも素晴らしい体技を見せる。彼女は体のあちこちに不調を抱えているため、長い距離の移動の際には必ず車椅子を使うのだが、あれこれあって苛立ちが頂点に達し、ひとりで長い長い廊下を歩きだすのだが、その歩行が刻むリズムと体の動きが、なんとも心地よくそしてユーモラスなのだ。まさに至芸! むろん、エマにもオリヴィアにも、監督の指示に自らのアイデアを上乗せする知力があり、それがゆえの体技=至芸であることは、言うまでもなかろう。

ビジュアルも凄い。あえてよく使われる形容句を使えば、東京ドームくらいはありそうな大宮殿を舞台に、壁やドアは極彩色で飾り、一方、登場人物は黒白を基調にした豪華な衣装。それらを、照明を使わず、夜の屋外シーン以外は自然光で撮っているこのセンス。この素晴らしさは、もしかするとTVの画面からは伝わらないかも知れない。

と、書いて思い出したのは、この映画の監督、ヨルゴス・ランティモスと同じギリシャのひと、テオ・アンゲロプロスが撮った「永遠と一日」である。映画館で見た時は、国境を超えてその街にやって来た子どもたちが、巨大な廃墟で亡き友の弔いをするシーンや、母を亡くし、妻を亡くした主人公をねぎらうために集まった、彼の友人知人親戚のひとたちが横並びして歌い踊るラストシーン等々にこころ震わせたのだが、TVで見た際にはさほどでもなく。おそらく、その違いは単なる画面の大小ではなく、画面の質、音の質、そして、自分ひとりではなく、見知らぬ人々と一緒に見る、ということが大きいのだ、多分。

そうだ、ついでにこれも書いておこう。この映画の原題は「The  Favourite」で、直訳すると「お気に入りの、もの、ひと」となるのだが、これを「女王陛下の」を足してタイトルにしたひとのセンス、ラ・スンバラシータですな。

 

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