竹内銃一郎のキノG語録

訃報 島さんが …2019.04.09

前回触れた、舞台美術家の島さんが亡くなってしまった。ひどい。悲しすぎて涙も出ない。神も仏もいないのか。

前回書いたように、島さんとのお付き合いは30数年前からだが、彼の前に竹内演出の舞台を支えてくれた舞台美術家は手塚俊一で、彼は30代半ばで亡くなってしまい、手塚さんがあまりに凄すぎたため、正直に書いてしまうが、どの舞台美術家と組んでも物足りなさを感じていた。島さんもその中のひとり。そんなわたしの評価をひっくり返したのが、これも前回に書いたが、「舞台美術」にも掲載されている「酔・待・草」。劇の終盤、背景を飾っていた黄色い花の壁(?)が中央から開くと、開かれたそこに天井から霧状の砂が落ちてきて、その前の上方を電球が左右に大きく振れ、そんな中で、事件(少女の死)について語るカオル先生の、冒頭と同じ長い長いモノローグ …。静と動、鮮やかな黄色と暗闇の見事なコントラストに、我ながら感激してしまったのだった。これに続く、「泣きたい『ジャスミン男』の夜 伝染」のラストも素晴らしかった。出演者は女性のみのこの劇、彼女たち全員が台詞を言いながら、公園の砂場を想定した、床面全体を覆っている砂をかき分けていると、中から電球が出てきて、よきところでその電球が明かりを灯し、彼女らの顔を照らすのだ。改めて断るまでもなく、これらは台本のト書きに書かれていることではなく、演出家のアイデアでもなく、島さんがひとりで考えたのだ。「月ノ光」(初演)の室内の拵えもよかった。最後に、小日向さん演じるグラックスが佐野さん演じるKにピストルを発砲すると、中央上方に大きな月が出る! これは台本の指示通りだが、出て来た月の大きさがよかったんですよ。

10月に上演予定の「今は昔、栄養映画館」の初演も島さんが舞台美術を担当したのだが、台本の完成が確か本番初日の一週間ほど前で、それまで劇の結末がわたしにも分からず(!)、島さん、ほとんどお手上げ状態で、う~ん、あれ、どんなセットだったんだろう? その「桃の会」による公演から10年近く経って、木場とすまさんでやった「今は昔、~」も島さんが担当、この写真は「舞台美術」に掲載されている。彼から今年届いた年賀状には、「10月の芝居、絶対見に行く」と書いてあったのだが …。

しかし、辛い。

 

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