痛快にして爽快! 快々作「バンディダス」を見る。2019.06.12
一ヶ月ほど前だったか、ふと、片足で一分くらい立っていられることに気づく。数年前のことになるが、TVで、片足でどれだけ立っていられるか、それで現在の自分の体力の程度が分かる、みたいな番組をやっていて、その時は20秒ほどしか立っていられず、それがここにきて体力増強? と驚いたたものの半信半疑。しかし一昨日。その体力増強が真実であることを証明する事件が起こる。
わたしはせっかちだから、横断歩道前で信号待ちをしているのが疎ましく、青信号がピコピコし出しても走って渡ってしまうのは昔も今も変わらない。五条通と東大路通が交差する、広い横断歩道を渡ろうと数歩進んだところでピコピコが始まり、慌てて走り出した途端に、なにかにつまずいたのか足を滑らしたのか、とにかく大きく、45度には届かなかっただろうが、上体が60度以上前に傾き、あっ! このまま倒れたら車に轢かれる?! 轢かれなくても急停止した車と車が衝突して事故になる?! 等々の恐怖が一瞬のうちに頭をよぎったが、前足がグイと踏ん張り、そしてすぐさまもう片方の足がその前にさしだされ、苦もなくめでたく、横断歩道を走り切ったのであった、そして、「ワシって凄くない?」と、心の中で自らに拍手を送ったのであった。この時味わった痛快なる爽快感の、さらに上を行く映画を見る。
舞台は19世紀半ばのメキシコ。ニューヨークの銀行は鉄道開通のために、貧しい民衆から不当な値段で土地を奪い、邪魔する者は殺し屋に容赦なく殺害させていた。銀行によって父親を殺されかけた貧しい農民の娘マリアと、父親を殺害された裕福なメキシコの銀行頭取の娘サラは、その復讐のために共謀して銀行強盗を計画する。そして…
上記は、ウィキにあった「バンディダス」の大まかなあらすじに少々手を加えたもの。バンディダスとは、同じくウィキによれば、スペイン語で「盗賊、ならず者、お尋ね者」という意味らしい。映画自体はもちろん、マリアを演じたペネロペ・クルス以外は、監督のヨアヒム・ローニングもサラ役のメキシコ系の女優さんらしいサルサ・ハエック等々、誰も何も知らず、TV番組雑誌にあった紹介文が面白そうだったので、このところの抑うつ的気分の転換に少しはなるかも? と見たら、まあ、とにかく痛快・爽快、とにかく笑える、大変な映画だったのだ。こんなにギャグ満載の映画は、最近に限れば、2、3年前に見たP・ボグダノヴィッチの「マイ・ファニー・レディ」くらいで、他にないのではないか。サラの愛犬、マリアの愛馬も大活躍で、一番笑ったのは次なる場面。
事件捜査のためにニューヨークからやって来た科学捜査専門の刑事が、なんとふたりの銀行強盗に賛同し、三人でこの地方最大の銀行襲撃の綿密な計画を立て、実行当日の夜。銀行周辺には銃を持った多くの男たちが警戒網を張り巡らしている。その彼らの頭上高く、銀行のビルに向けて、通りを挟んだところに建つビルの屋上からロープを投げ、レンジャー隊員のようにそれを渡って …という作戦なのだが。そのロープの端をマリアの愛馬の体にくくりつけてゆるまないようにしていたのだが、警戒に当たっている猛者の数人が、暇つぶしなのか、ギターを抱いて演奏を始めるべくチューニングをしていると、そのゆるやかな音に馬が反応し、あらぬ方向にゆるやかな移動を始めてロープがユルユルと緩み、ロープを渡っていたサラがほとんど彼らの頭上スレスレのところまで降りてきてしまう、危うし! と思ったところでチューニングが終わり、軽やかな演奏が始めると、お馬ちゃんはしかるべき方向に向きを変えて移動を始め、事なきをえる、と。ま、文字で書いたってこのおかしさはうまく伝わらないであろうが。要するに、こんなハラハラと笑いと音楽が実にうまくミックスされた、絶妙のギャグが満載されているのである。ウィキによれば、製作は2006年だが日本では未公開。監督のヨアヒム・ローニングは「パイレーツ・オブ・カビリアン/最後の海賊」を監督しているらしい。暇が出来たら見てみよう。
あ、忘れてた。この映画にはP・クルスの他にもうひとり、懐かしいひとが出ていたのだ、劇作家にして俳優だったサム・シェパード! ふたりの女性に銀行強盗のイロハを伝授する元・強盗役。ウィキで見たら、なんと2年ほど前に亡くなっていた。その昔、彼の戯曲集「埋められた子供」を読んでいる、中身はすっかり忘れてしまったが。享年73歳。ああ、合掌。