竹内銃一郎のキノG語録

お回顧様 20192019.12.30

本日、「月ノ光」改訂版のデータ化作業、ようやく終了。正確には、書き切れていない台詞がひとつ残っているのだが。このところ、芝居や映画の台本が薄っぺらいと繰り返し書いているが、この作品はうまく出来てる。これは自画自賛というより、これを書いた昔も、改訂にあたった現在も、自分の能力ではこれ以上には書けない、という無念さを裏事情としての感想である。

とにかく忘れっぽい主人公のK(カール)は、<忘れられるはずもない出来事>を思い出せないことが不安でたまらない。そして終盤。あることをきっかけに彼はようやく思い出し、それを同じアパートの隣の部屋に住む友人・グラックスに、「ここだけの話だぜ、他の誰にも内緒だぜ」と前置きをして、自分はとっくの昔に死んでいることを話す。と、グラックスはKと一緒に大笑いした後、やにわに「もうお別れだ」と言ってピストルを取り出し、Kを撃つ。と、中天に月が出て …。このラストシーンに至るここまでの過程もうまく書けているが、ここでのふたりのやりとりは、ナンセンスで切なくて、わたしは大好きだ。この作品の初演の舞台美術は、今年亡くなった島(次郎)さんが担当された。銃声をきっかけに中天に出る月の大きさに驚き、感涙したっけ。

今年はほんとに、わたしにとっては<かけがえのない>という形容を使いたいひとが次から次と亡くなってしまった。橋本治、ショーケン、加藤典洋、そして、島さん。わたしの大好きだった芸人、ケーシー高峰、W・ヤングの平川幸男。ともに年齢を感じさせないところが凄い、不滅の芸人だと思っていたから、まさか亡くなられるとは。それから、実際にお会いしてお話したことがある、「子連れ狼」等の人気劇画原作者だった小池一夫、勝新太郎さんのご子息・鴈龍、映画カメラマンの川又昂さん。そうだ、ディープインパクトが亡くなったのもショックだったが、その10日後、ディープを追うようにキングカメハメハまで亡くなってしまったことにも。合掌。

30年ぶりの舞台出演は想像していた以上に大変だったが、もう忘れてしまった。前述のKはわたしをモデルにしたのではないか、多分。来年の11月に札幌での上演が予定されている。大丈夫? それまで生きていれば …。ま、先のことは誰にも分かりませんからね。最後に、今年見た映画のベスト3を。

「ウインド・リバー」(監督T・シェリダン)「心と体と」(監督E・イルディコー)「女王陛下のお気に入り」(監督Y・ランティモス)。「運び屋」のC・イーストウッドには主演男優賞を差し上げましょう。

ええっと、何人様いらっしゃるのかまったく分からないのですが、このわたしのブログを読んで頂いている方々、拙文におつきあい頂き、ありがとうございました。来年も引き続きよろしくお願いします。

よいお年を。

 

 

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