竹内銃一郎のキノG語録

<アルモドバル系>に気持ち、ザワつく。2020.05.01

もう五月。このブログ、10日ばかり音沙汰なしにしたせいか、幾人かの知り合いから、わたしの体調を気遣うメールが送られてきたが、スンマセン、わたしの体調すこぶる快調です。今週は月曜から昨日まで、毎日あちこち散歩に出かけ、その距離合計50キロ強。いまは外を出歩くのはご法度だ? それは間違い。出かけた先にも、途中で行き交うひともほんとにまばらで、健康のことを考えたら、室内でじっとしているよりこっちの方がいいに決まってる、それにしても。「緊急事態宣言」は鬱陶しい。あと数日でピリオドが打たれるはずが、あと一ヶ月延長される気配。ズルズルとこのままこんな状態が続いたら、たとえ「宣言」が解除されても、小さい劇場で上演される芝居になんぞ、みんあ怖がって来ないのじゃないかと、そんな不安がブログを書く気を失せさせていたのだ、多分。

と、ここまで文字を書かせているのは、思わぬ後押しがあったからで。ひとつは、数日前にわたしの姪の息子の「すこぶる鉄ちゃん」に、「新日本風土記」の「SL篇」と、江原真二郎演ずるSLの機関士(かまたき)を主人公とする「裸の太陽」(監督・家城巳代治)のDVDを送ったら、「受け取りました」という文章のあとに、「県庁への就職が決まりました」というビッグニュースが添えられた返信が届いたこと、それから、P・アルモドバルの「ハイヒール」(初見)及び彼が製作に加わっている「人生スイッチ」を再見し、その面白さに仰天させられたことと、このふたつ。

「ハイヒール」は、わたしが知るアルモドバルの映画と同様の、母子の愛憎関係を軸とした作品。長らく離れ離れになっていた人気歌手の母親と、TVでニュースキャスターをやっている娘が久しぶりに再会。娘は結婚しているが、いまはうまくいっていない彼女の亭主は、かって母親の愛人だった男! なんとも込み入ったこの三角関係に加えて、娘には最近親しくなったらしい男がいて、彼は娘の母親の物真似で売れてきている芸人で …と、まあ、よくこんな設定が出来たもんだと驚くが、この先にはさらに驚かされる事実(?)がある、それは。ある夜、娘の亭主が射殺され、娘と母親はその容疑者として検事から取り調べを受けるのだが、その検事がまた<驚きの設定>になっていて …。笑いと驚き、それに、憎しみあいながら愛を語り合う母・娘の切ないやりとりがあって、物語の終わり方にイマイチ感は残ったが、それを勘定に入れても「傑作」の評価は変わらない。

「人生スイッチ」は、「おかえし」「おもてなし」「パンク」「ヒーローになるために」「愚息」「Happy Wedding」と命名された6本の短編集である。数年ぶりの再見。それぞれが始まって少しすると、「ああ、次はこうなるゾ」と思い出したのだが、にもかかわらず、どこをとっても<思わぬ展開>で、これは驚くべき快作だ。

「おかえし」は飛行中の航空機内が舞台。とりあえずの主人公である美人モデルに、通路を隔てた隣席の、60代かと思われるおやじが声をかける。なんでもない話からふたりには共通する知り合いがいることが分かり、すると、モデル嬢の後ろの席に座ってた婆さんが「わたしはその男の小学校時代の教師だった」と言うと、別の男はその男の同級生で、そしてさらには、CAまでもがこの飛行機の操縦士は<その男>であることを伝え、結局、機内の全員が<その男の知り合い>で、なおかつ、彼をいじめの対象としていたことが判明すると、飛行機は揺れ出し、カット変わって、自宅の庭にいた老夫婦(その男の両親?)のはるか遠くの上空から、グングンとふたりを目がけて飛行機が!!

他の5本もいずれ劣らぬ上級の出来栄え。「ハイヒール」ともども、シナリオが実に巧みに書かれているが、それだけではない、カメラ、照明、音楽、編集、そしてもちろん、俳優、演出・監督、いずれも冴えに冴えているのだ。このところ、日本映画CHで放映されている、日本の若手監督の作品をあれこれ見ているが、どれもこれも、不要不急の外出制限に殉じたような退屈さ。だから余計に、このアクロバチックな<アルモドバル系>に気持ちをザワザワさせられたのかも知れない。

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