竹内銃一郎のキノG語録

「前略 おふくろ様」と「半沢直樹」には天地の差がある。2020.10.07

10日ほど前までは、やっと暑さも抜けたかと思っていたが、この数日の朝晩はかなりの涼しさ。ああ、秋が来た。

日本映画専門CHでまたまた「前略 おふくろ様」の再放送が始まった。二、三年前だったか、同じチャンネルで放映された、第1シリーズ25本、第2シリーズ24本、全部見て、笑って泣いてすこぶる付きの感動の大波に、何度も飲まれてしまったのだが、今回はもういいだろうと思っていたのに、第一回目が日曜の朝8時からの放映で、ということは、JRAの競馬が始まるちょいと前、時間つぶしになんとなくまたまた見てしまって、またまたまたの感動とは言わないまでも、いくつかの新しい発見があって、気分上々。そのお陰かどうか、久しぶりに、この日のメインレース、G1のスプリンターズSを3連複で的中! ありがたや、ああ、ありがたや。

二、三週前に終わったTVドラマ「半沢直樹」には、柄本さん、木場さんをはじめとして10人ほどの知り合いが出ていたこともあり、二、三度チラチラと見たがどうにも退屈な代物で。そもそも業界トップレベルの会社がどうのこうのなんて話など、ワタクシ的には興味の欠片も持ちようがないのだ。出演者たちの大仰な演技はまるでコントのようで、それぞれが自らの芸達者ぶりを振りまき競い合っった結果だろうが、だからどうしたって感じ? そういえば、五、六年前(?)に放映されたこのドラマのシリーズが終了してすぐ、漫才のナイツが、このドラマの有名・評判となった最終回のラストシーンのパロディ・ネタをやっていて笑ったが、驚いたのはナイツのふたりの芝居が、香川照之と堺雅人が演じたそれとさほどの差がなかったことで、ナイツがお上手というより、香川・堺はその程度の役者であることが確認されてしまったのだった。

「前略 おふくろ様」を優れた作品にしているのは、やはり倉本聰のシナリオだ。ショウケン演じる主人公・さぶの住む四畳半の部屋に、夜、彼のはとこである海がやって来て一緒に寝ようと言われ、気弱で純情なさぶはしょうがないので、料理人として働いている店の、休憩室の押し入れで一夜を明かすことに。と、そこへさぶが尊敬する店の花板と店の若女将がやって来て、ひそひそ話。それは、ひとを殺して逃亡中のやくざが、5年前に足を洗った元やくざの花板のところに一宿一飯を頼みに来るのでは、と警察が来て云々という話。このシーンの何に感心したかといえば。視聴者の関心を惹きつけるためには、極力早く、主な登場人物たちの人柄・素性・関係、等々を明らかにし、物語の今後の展開に期待を持たせることは必至だが、とりあえずはなんの関係もない海と花板の人物像ををさぶを媒介にして明らかにし、なおかつ、深夜の狭い部屋で、花板(独身)と若女将(既婚)にひそひそ話をさせることで、このふたりの関係は、さぶ・海ともども、これからどうなる? と、見る者を興味津々にさせるのだ。こんなに鮮やかに話を紡ぐことが出来るシナリオライターはおそらく、現在の映画界・TV界には一人としていない。

これは優れたシナリオだと思わせるためには、言うまでもなく、出演者及び演出家の技量に<それなりのもの>がなければならないが、このドラマに出演する俳優たちには、誰一人、「退屈」や「白け」を感じさせるものはいない。さぶ=ショウケン、海=桃井かおり、花板=梅宮辰夫、若女将=丘みつ子、みんないい。中でも、第一回目には少ししか出ていないが、鳶集団で働く利夫を演じる故・川谷拓三は絶品だ! 演出は3、4人交代で担当しているがいずれも、これまた現在のTV界にいないのでは? と思わせる上級者。「半沢直樹」が作られた現場のことなどもちろん何も知らないが、わめき散らす俳優たちの芝居は、前述したように、競い合う俳優たちが作り上げたもので、演出家の具体的な指示などなく、ただただ彼ら・彼女らにへいへいと従っただけではなかったか。だからかどうか、高視聴率と言われた今回のシリーズの視聴率は、確か前シリーズの半分を少々上回っただけのはず。凄い凄いとこのドラマを持ち上げ騒ぎ立てたマスコミ等は、この冷厳な事実をどう思っているのだろう?

 

 

 

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