竹内銃一郎のキノG語録

戦時下にもたまさかの喜びが …2021.04.11

昨日4月10日、「恋愛日記 ’86春」(6/9~13)のチケット予約受付開始! なのに? 今月22日から稽古が始まるのだが、稽古場として使用させてもらう京都芸術センターから、「使用可能時間は18時から20時まで」とのお達しが。いうまでもなく、京都府にも「まん防」が下ったからである。予想はしていたのだが、いざ下されるとガックリ。
以前にも書いたが、まるで戦時下のような日々が一年以上も続いているかのよう。好きな時に好きなことが出来ない不自由。しかし、新型コロナ感染下の生活に慣れたと言えば言える。数カ月前までは、ひとが集まる場は例外として、ひとりの散歩時にはマスクをせずにいた。浅はかな命令・制限に従ってたまるかと思ったからだ。しかし、11月末くらいからか、外出時には寒さしのぎの道具としてマスクをかけ始め、2,3月は花粉症防御として、更には汚い面も隠せる益もあり、マスクは欠かせぬ必需品となった。一時期はマスク無しのひとは10人に1人2人いたが、いまはもう100人に2,3人。それを確認するたびにイラつく。こんな気分をなだめようとTVや映画など見るのだが、ムカツクことはあっても、晴れ晴れウキウキすることは稀々だ。その稀々を以下に。
昨日、ツイッターで吉本新喜劇の女優、島田珠代の素晴らしさを呟いた。彼女のことは昔から知っていて、男性に壁や塀にぶつけられたり、男性の股間を指で弾いたり等々のギャグに笑い転げたものだ。それらのギャグは今でも見せるが、この一、二年の彼女を殊更に好ましく思うようになったのは、体を張った熱量過多の演技スタイルに、時として、繊細な日常の観察から得たクールな演技スタイルを挿入するからだ。先週土曜放映の吉本新喜劇の一場面でそれを見た。彼女は小学生役。これがまあ可愛くて可愛くて、とても御年50歳には到底見えないところも凄いのだが、両親がささいなことをきっかけに離婚の話を始め、そのふたりの間に立つ彼女にはしばらく台詞がないのだが、不安と緊張を抱えていることを的確に表現する。うつむきながら、時々両親の顔を垣間見る彼女の不安と緊張は、ピンと突っ張った両手の指先によって表現されていたのだ。多分、大半の観客はそんな微細といえばいえる演技など気にもとめないだろう。いまは、名前は忘れてしまったが、ギャーギャーと吠えまくる漫才が多くの支持を受けていて、もしかするとそれは、戦時下の不安がそうさせているのかもしれないが、少なくてもわたしは、現在のささくれた戦時下だからこそ、彼女のチャーミングというほかない演技スタイルに惹かれるのである。もうひとつは、
2、3日前にTVで見た、ジム・ジャームッシュの「ナイト・オン・ザ・プラネット」。これは30年前に封切られた時に見ていて、「詰まらなかった」という以外の記憶は、まったくと言っていいほどなかったのだが、今回は身震いするほどの面白さを感じて。主な舞台はタクシーの車内で、運転手と客がアレコレ言葉を交わしあい、時には険悪な関係となり、時には友情・愛情が生まれる。タクシーは、ロスアンゼルス、ニューヨーク、パリ、ローマ、ヘルシンキの街を走り、その5つの話になんの脈絡もないのだが、当然とはいえ、どれにもJ・Jのクールで優しい世界観が感じられる。どれも面白いのだが、わたしのイチ押しは、ニューヨーク篇。深夜、タクシーがなかなか捕まらずイライラしていた黒人の男が、ようやくタクシーを捕まえる。しかし、運転手は東ドイツから来て間もない老年の男で、客の指示する場所がよく分からず、おまけに、まともに車を走らせられず。それで、大柄な黒人の客が代わりに運転することに。この設定も面白いし、交し合う台詞も面白く、さほどの時間経過もないうちに、ふたりの間にうらやましいと思えるほどの友情が芽生えるのである。マイッタ!

 

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