竹内銃一郎のキノG語録

広岡さんの「解説」にウルル …2021.06.04

「竹内銃一郎集成」の第二巻、「カップルズ」の解説をお願いしていた広岡(由里子)さんから今日、ようやく原稿が届く。「原稿はどうなってますか?」とメールを送ると、必ず「今月中には、来月中には必ず」等々の返答があったものの、なかなか届かず、悩んでいるのかなあ、書けないと言ってきたら誰に頼もうかと思っていたのだが、届いた原稿が想定以上の面白さで。解説を頼んだ時期は皆おなじ、去年の5,6月だったか。それから2カ月ほどのちに、まず佐野(史郎)さんが、去年の終わりに佃くんが、今年になって土橋くんが、4月の終わりに水沼くんが、みなそれぞれ面白かったのだけれど、広岡さんのがまた。これで解説がみな揃ったとの安堵の気持ちがわいたためもあろうが、読み終わってわたし、ちょっと涙目に。
広岡さんは、わたしの芝居に出演して頂いた女優さんの中では随一のひとで、これまでも何度かこのブログに書いた覚えもあるが、まさか文章でこんなに感動させる腕があるとは。彼女とは東京乾電池新人公演の「恋愛日記 ’86」が最初で、それから、乾電池、JIS企画、カメレオン会議等で10本ほど出演してもらっていて、どれも忘れがたいのだが、それはさておき。彼女に解説を頼んだのは、もうずいぶん前になるが、「劇作家協会」の雑誌に頼まれて、わたしについて書いた文章がすごく面白く、それで今回お願いしたのだった。今日の稽古終了後、広岡さんの「解説」にあった、観世寿夫の「心より心に伝ふる花」についてわたしが稽古の際に話したらしいことを話した。わたし曰く、「芸能においての花という言葉について。世阿弥の”一生精進の精神”や年齢ごとにやるべき稽古などなど。そして役者の演じ方。偉い人(金持ち)は腹から歩く。偉そうな人は肩から歩く。足から歩く、顎から歩く、ガニ股、内股、肩をすぼめる、前屈み、ふん反りかえるなど。……」。
今日の稽古は17時からだったので昼食後に時間があり、ヒッチコックの「ハリーの災難」を見る。彼の映画は、戦前のものはともかく、戦後に撮られたもののほとんどは見ていたが、この映画は、サスペンスフルな物語ではないことを知っていたので、見るのは今回が初めて。が、意外や意外、これが想像以上の面白さ。高齢の船長が住まい近くの山の中で、死体を発見。てっきり、ウサギを撃つつもりの弾が男に当たったと驚き、なんとか死体をどこかに埋めようとしているところに、次々と近所の人々が現れて ……という喜劇仕立て。話の展開も台詞も絶妙なので、てっきり戯曲が原作かと思ったら、小説を素にしたらしい。近所の知り合いと、その死体を埋めては掘り返しを何度も繰り返すことの可笑しさ。
わたしは前述の観世寿夫の本に受けたのと同じ刺激を、「映画術 ヒッチコック/トリュフォー」からも受けている。が、ともに30年ほど前のこと。どちらのどんな発想・言葉に影響を受けたのか、もうすっかり忘れてしまった。ああ ……。
今朝、解説者のひとり、佐野さんから、わたしが送った「~花ノ紋」を受け取りましたと、メールが届く。4月に病気で入院した佐野さん。まだ入院しているらしく、「隔離病棟にいるので、新型コロナ感染の恐れはなく …」と冗談交じりのことが書かれていた。早く治ってもらって、予定通り「あと3年、あと5本」の最後の舞台を彼と一緒にやりたいのだが …。佐野さん、ガンバレ。

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