竹内銃一郎のキノG語録

ああ、懐かしや!1994 活動の記憶㉞2021.07.14

先週の金曜、半年ぶりにペレイラと会う。彼が主宰する劇団「プロトテアトル」が来年に上演する芝居のホンについてのあれこれを話し合う。この話は1月上演の「さいごのきゅうか」に出演した彼の劇団のメンバーである豊島から打診され、OKしたのだが、その際、どういう芝居をやりたいのか、なにかネタがあればペレイラから聞かせてほしいと言っておいたのだ。残念ながら(?)、公演時期と出演予定者の人数以外になにもなく。まあ、そんなことになるだろうとは思っていた。実際、ホンの依頼を受けた際に、「こういうものを」という話を聞かされたことは殆どなくて、記憶にあるのは、俳優座からの映画「ミラノの奇蹟」を原作にというのと、松下企画(だったかな?)からあった、映画「ザ・スティング」の舞台化くらいだ。今月中にネタを伝える、今年中にホンを書き上げると約束をして別れる。
前述のこともあってこの二カ月ほど、いろいろ映画を見たり本を読んだりしているのだが、どうもピンとくるものが何もなく。その代わりに(?)、少なからずのショックはあって。それは、かって面白いと思っていた映画や本と久しぶりに再会すると、何故かあれもこれもイマイチなのだ。W・アンダーソンの「ムーン・ライズ・キングダム」しかり、E・イルディコーの「心と体と」またしかり。これらを初めて見た時は、体は震え心は踊ったのに、最近見たら、詰まらないとは思わなかったが、心さほど躍らず。この心変わりが不思議というより最近の不安のモトになっているのだが、昨日、これも久しぶりに見た「ダンサー・イン・ザ・ダーク」には、脳天をガツンと殴られたような衝撃を受けて …。この映画については改めて書くことにして。すっかり枕の話が長くなってしまった。いざ、本題へ。
「眠レ、巴里」は、ダブルキャストで上演。姉の役を中村小百合さんと池村久美子さん、妹役を黒田訓子さんと菅川裕子さん。中村さんはバリバリ・ガリガリという語り口で、池村さんはその逆でゆったりおっとりと喋る。妹役のふたりも同様で、黒田さんはゆったりねっちょりとした物言いで、菅川さんは見た目も喋りも男っぽい女の子だった。ともにその真逆さが面白いと思いキャスティングをしたのだったが、黒田さんは初日の舞台が終わると、「わたしには無理です」と降りてしまい、二日目からは妹役は菅川さんひとりで演じる。中村さんはこれが終わって間もなく、パリに行ったまま帰らず(今もまだパリに?)。池内さん、黒田さんはともに結婚して芝居をやめてしまった。懐かしいな。黒田さんはよくわたしのところに電話してきた。暇つぶしだったのかな? 一度、「その男性と付き合ってると言えるかどうかは、セックスをしてるかどうかということ?」と彼女に聞くと、間をおかず、「違いますよ。会って別れる時、その時には言葉にしなくても、近々また会うということが分かってるひとを付き合ってるというんです」と。94年というと今から27年前だから、彼女の子どもはもう20代半ばになっている⁈ ひぇー。
この公演は二本立てだった。チラシを見ると、「東京乾電池特別公演」とあるが、いうならば、前年の「みず色の空、~」に続く若手公演で、しかし、岩松さんはもう乾電池をやめてしまったので、もう一本は、公演の制作を担当していた三股(現・大矢)さんが、作・演出を担当した「満月の夜」。このタイトルも、それから出演者が20人ほどが出て、その具体はなにも覚えていないが、とにかく馬鹿馬鹿しくて切ない話の中身も、これらはいずれも「眠レ、巴里」との相関関係を語るもので、三股さんのそのセンスはなかなかだとわたしは感心したのだった。あれもこれも思い出すだに、ああ、懐かしや。

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