竹内銃一郎のキノG語録

「リバー・オブ・グラス」を見る。2021.08.22

ああ、いつになったら雨なき日はやってくるのか。現在の住まい河原町通沿いに建つマンションの8階。タバコを吸うためにベランダに出ると、通常であれば、約70メートル先の七条通沿いに並んで立っている2軒のマンションの、2~3メートルほどの隙間の向こう遠くに伏見城がくっきりと見えるのだが、ここのところは雲のかかりでうっすらとしか見えない。新コロ感染者数は全国的にガバガバと増加しているが、ひょっとして、降り続く雨はひとを家の中に留めて感染者数を押さえようとする、何者かによる苦渋の選択かも?
先週、直珈琲さんから、「いま出町座でやってるケリー・ライカートの映画は凄いです。これは必見!」というメールが届いたので、今週月曜、小一時間歩いて出町座に出かける。映画の好み・評価基準において、わたしとほとんど差のない彼が絶賛するのだから、きっと面白いはずと思って座席に座り、映画が始まって5分と経たないうちに、こりゃ凄い! と驚く。見たのは、監督・ケリー・ライカートの長編処女作「リバー・オブ・グラス」。グラスはガラスのことだと思いきや、草のことでした。トホホ。
主人公は子持ちの30代と思わせる女性。しかし、まだ2,3歳かと思われる男の子に対する接触の仕方が実にどうも適当で、愛情の欠片も感じさせない。そんな彼女が飲み屋で知り合った、これまたグータラ的日々を過ごす、彼女と同世代らしき男に誘われて、彼の知り合いのプールがある家に忍び込んでそこで泳いでいると、その家の主人らしきおっさんが家から出てきて、それに気づいた主人公の女性は、男が持っていたピストルを手にしておっさんめがけてぶっ放す。
男が持っていたピストルは、彼の友人が道端で拾ったもので、俺はいらないからと彼にくれてやったものだが、そのピストルは警官である主人公の父親が落としたものだった。ここからアレコレあるのだが、彼女と彼がこれからどうなるのか? おそらく誰もこの映画のラストシーンを当てることは出来ないだろう。
冒頭からしばらくは、主人公の過去の写真と、それを軸にした彼女の生い立ちや生き方についてのモノローグが続くのだが、この冒頭の数分がまず見るものを惹きつける。
もちろん、彼女の言動がこの映画の軸になっているのは言うまでもないが、時々、なんの脈絡もなく挿入する、彼女の関係者・無関係者のカットが笑いとペーソスを含んでいてこれも結構。
以下はケリーさんの紹介。1964年生まれ、フロリダ州マイアミ出身。学生時代から映画制作を始め、1994年に初長編『リバー・オブ・グラス』を発表。

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