アリガタヤ。 映画「詩人の恋」と西東三鬼の「神戸 続神戸」を見て読んで。2021.09.14
一か月ほど前、長岡天満宮に出かけてその帰り道、阪急の長岡天神駅近くに小さな古本屋があるのに気づき、しかしあまり時間もなかったので、店の外に置かれた本棚にあった「西東三鬼集」(朝日文庫)のみを買う。100円也。それからほぼ毎日、ぽつぽつとそれを読んで昨日やっと読了。彼の句、「食えぬ筍光獣の道せまし」はいつどこで知ったのか。とにかく目にした時にビビッと来て、「東京大仏心中」の中で引用した。ということは? この上演は1992年だから …。いや、そんなことはどうでもよくて。
この本は「現代俳句の世界 9」の中の一冊だから、当然俳句だけかと思ったら、(1頁につき8~12句)×180頁だからその数2千近い俳句の後に、「神戸」「続神戸」と題して、彼が神戸で過ごした第二次世界大戦終盤の数年間で起きた面白哀しい出来事を綴った<実録>があった。改めて言うまでもなく、読んだことのない俳句の傑作も百や二百ではなかったが、「神戸」「続神戸」にすっかり心惹かれてしまって。いつかこの本をベースに新しい戯曲を書けたらと思ったが、ま、無理でしょうね。
てなことがあって、以下は今朝のことである。
いつもなら火曜日の朝は、朝食の後、100分ほど歩いて京阪丹波橋駅近くにあるスーパー万代まで買い物に行くのだが、ポツポツではあるが雨が降っているのでそれを諦め、数多あるTV録画の中から、「詩人の恋」を選んで見ることにしたのだが、これが❣
ファーストショットは険しい岩肌が目を引く小山(?)の遠景。物語の舞台は韓国の済州島である。詩を思わせるナレーションが入って、「わたしの巡歴図」という字幕。
海岸沿いの道路をバスが走っていて、次にそのバスの車内の席に座る30代と思われる男のバストショット。この男が主人公の詩人なのだろう。次に、さほどの広さのない部屋で机を囲んで椅子に座っている10人ほどの男女の前で、前シーンの詩の続きを読み上げている主人公。みな彼が所属する詩のグループメンバーらしい。彼が読み終わると、ひとりふたりからお褒めの言葉が語られるのだが、それを遮ってひとりの女性がかなり厳しい感想を言い、続いて男性も同様の感想を。場面変わって、彼の家。子供が欲しい奥さんとセックス。それから幾日後か。ふたりで産婦人科へ出かけ、女性の医師から「奥さんに問題はないのだが、ご主人の精子が貧弱過ぎて …」という意味の厳しいお言葉。ここまでは、いうならば切なくも可笑しい内容なのだと思って、これからどんな展開を見せるのかと思いきや ……。詳しくは書かないが、思わぬ展開のきっかけになるのが、最近近所に出来たドーナツ店で、妻が落ち込み気味の夫を元気づけようと買ってきたドーナツ。ここから思わぬ展開になって、主人公の悩み苦しみが始まるのだが、始まって60分ほど経過したところであったか、ここが落としどころ? と思わせるシーンがあって、なぜそこをそう思ったのかと言えば、ファーストシーンをなぞるように、主人公が自らの詩を読みあげたからだが、ところがどっこい、物語はここからひと山ふた山を登り降りするのだ。う~ん、これは想像以上の傑作だ。
驚いたことに、冒頭で紹介した西東三鬼の「神戸」「続神戸」で書かれている話も、まさにこんな非日常的な日常を描いた内容なのである。物忘れがあまりに激し過ぎて、もうなにも書けないだろうと思う最近であったが、両作に触れて、「ワシもやったるで」という心境に。アリガタヤ。