竹内銃一郎のキノG語録

始まって10分と経たないうちに虜にされて … 「秘密と嘘」を見る①2021.09.21

前回とりあげた「詩人の恋」に続いて、またまた凄い作品に出会う。イギリスの映画「秘密と噓」である。
愛読している「デジタルTVガイド」に書かれていたこの映画の紹介に、1996年のカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞したとあってこの映画を録画したのだが、しかし、この賞を受賞した是枝裕和の「万引き家族」も今村昌平の「楢山節考」「うなぎ」も、さほどの作品だとは思っていないので、最初の10分ほど見て詰まらなかったら消そうと、ほとんど期待していなかったのだ。それが❣
この稿の資料にと、さっきWIKで「カンヌ・パルムドール受賞作一覧」を見る。1951年から今年まで約70年、一年に2作の受賞や、去年はコロナ感染で、1968年は「五月革命」で中止になっているが、受賞作約70本のうち、わたしは40本ほどを見ていた(ご苦労さん)。この40本の中からわたしのベスト5を年代順に挙げると(因みに、40本の半分ほどは詰まらない作品だ)、1964年の「シェルプールの雨傘」(監督ジャック・ドゥミ)、1998年の「永遠と一日」(監督・テオ・アンゲロプロス)、2000年の「ダンサー・イン・ザ・ダーク」(監督・ラース・V・トリアー)、2019年の「パラサイト~」(監督・ポン・ジュノ」、そしてこれから書かんとする、マイク・リー監督の「秘密と嘘」(1996年)である。
お墓が並ぶ、あれは庭園墓地というのか、そこで、100人に近い老若男女(ほぼ黒人)が、死者が入っているであろう箱を土中に埋める男たちを囲んで、レクイエム(?)を歌っている。これがこの映画のファーストシーン。その中にひとり涙を流している20代半ばと思われる黒人女性が。次に、華やかな室内で、花嫁衣裳を着て椅子に座っている若い女性の写真を撮っている太っちょの男。次のシーンはそのカメラマン(モーリス)が自宅に帰っていて奥さんと思しき女性(モニカ)と会話を交わしている。部屋には5,6歳と思われる女の子の写真が置かれていて、ふたりの会話から、その女の子は彼の姉の娘であることが分かり、そして、もう2年半、彼女とも彼女の母である彼の姉とも会っていないことが語られ、だから、2か月後に21歳になる姪と彼女の母を新築したこの家に呼んで、誕生パーティーをしよう、という話になる。次に、街の通りの清掃をしている若い女性、段ボール工作の会社で働いている中年女性のカットが続き、それからこのふたりが狭い部屋で不安と不満をぶつけあうシーンがあって、つまりは、このふたりこそ、モーリスが話していた、彼の姪のロクサーヌと彼の姉のシンシアであることが分かる。
ここまで多分10分足らずだが、哀しい死が語られたと思った次には、幸せの微笑みが止まらない花嫁にピントが移り、と思ったら、新築の家の室内がうつろな感じさえするモーリス夫妻のシーンが入って、次には、その仕事といい住まいといいモーリスとは真逆の、下層生活者と思われるシンシア親子にピントがあてられる。まだ始まったばかりだから、これら彼らがいったいなにをしてどうなるかは分からないのだが、この分からなさにこれほどに魅力を感じたのは、あまり記憶がない。そして間もなく、冒頭の葬式で涙を流していた、おそらく死者の家族であろう女性が、モーリス&シンシア等にどう絡んでいくのかも ……?(続く)

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