竹内銃一郎のキノG語録

ホーキンスは有難き天使に? 「秘密と噓」について③2021.09.30

昨日のお昼1時過ぎ、TVをつけるとどのチャンネルも自民党総裁選を報じていて、それを数分見たがなんの面白味もなく、録画した「秘密と噓」をもう一度見る。前回の最後に書いた、シンシアとホーテンスが朝の食堂で語り合うシーンである。いや、その前に、待ち合わせ場所の地下鉄駅前のシーンにも触れておかねば。
ロングショットで、駅の入口にシンシアが立っていて、その前をホーテンスが行ったり来たり。それが何度かあった後、ホーテンスはシンシアに声をかけるとシンシアは少しうろたえる(ここからカメラはふたりに近づく)。自分の子どもだと電話をかけてきた女性が黒人だったからだ。間違ったひとに電話したのでは? と言うシンシアに、ホーテンスは市役所で貰った出生証明書を見せるが、シンシアは当初にあった緊張感から解放された面持ちで、「市役所の手違いよ、残念ね」と答える。ホーテンスは冷静に「ゆっくり証明書を見ていただけますか」と言って、近くにあった食堂へと誘う。店に入り、テーブルを前にふたりは座る。差し出された書類を見ながら、「ひどい役所ね。あなたにカラ望みを …」といい、そして、「わたしは黒人とは一度も …」と言いいながらタバコを吸って数秒後、突然、恐怖に襲われたかのように表情が歪み、そして、「6週間早く生まれたとばかり思っていたの …」と泣き出す。
彼女が出産したのは16歳の時。ということは、彼女が15歳の時にsexをして出来た子どもということである。幼い時に母を失くし、弟(モーリス)の面倒見を含む家事に追われる鬱陶しい日々の産物とも言えよう。彼女は産んだ子どもを一度も見ることもないまま病院を出ている。なぜ? 出産を望んではいなかったし、育てる自信もなかったからだろう。「6週間~」とはその時期、付き合っていた白人の男との間に出来た子どもだと思っていたからで、その男とは別に、黒人の男ともsexをしたことを思い出したのだ。おそらく、一度だけのsex、ひょっとしたらそれは記憶からかき消していたレイプだったのかもしれない。
泣きながら語るシンシアの話を、冷静に聞いているホーテンスの表情が素晴らしい。自分が話すときもほとんど変わらない。シンシアはホーテンスに両親は? と聞く。ふたりとも亡くなったとこれまた冷静な物言いで答え、わたし達に血のつながりがないことは、自分が7歳の時、家族で出かけた旅行先から帰る飛行機の中で聞いたと語る。「驚いたでしょ?」というシンシアの質問に「窓の外の雲を見ていた」と静かに答えるホーキンス。泣けマス。翌日、今度はシンシアからホーキンスに電話をかけて、ふたりで食事を。そして ……。
ここまで書いて、ひと休みしようとリヴィングに行くと奥さんがTVで「明日の食卓」を見ていた。菅野(美穂)さんも出ているこの映画、どういう話なの? と奥さんに聞くと、同じ名前の息子を持つ3人の女性の話だという。コーヒーを飲みながらしばらく映画を見ていると、予想通り、まことに浅はかな作り。原作の小説がどういうものかは知らないが、3人の女性いずれもが小学生と思われる息子たちと怒鳴りながら涙ながらの喧嘩をし、それを切れ目なくつなげて見せるのだ。同じ名前の息子を持つ3人の女性という設定も、3人がいずれも家族関係がうまくいかない設定も悪くない。だが、3つの親子が似たようなことをしていて、それを並べて見せるというセンスがどうにも。おそらく、「秘密と嘘」の監督マイク・リーだったらこんな浅はかな選択はしないだろうし、わたしだって、1と2は似ていても、3つ目の親子は目の二つと違って、ガーガーと騒ぐことなく喧嘩をさせるだろう。
「秘密と噓」について書きたいことはまだ多々あるが、最後の結構なシーンの紹介をして ……
叔父のモーリス宅で、最初は「新しい友達」だと母に紹介されたホーテンスが、実は父違いの姉だという母の告白を聞いたロクサーヌは、怒り狂って部屋を飛び出すが、モーリスに説得されて彼の家に戻り、そしてその翌日なのか数日後なのか、シンシアの小さくて狭い家の小汚い庭で、ホーテンスとロクサーヌは楽しそうに語り合っていて、そこに飲み物・食べ物を持ってシンシアは現れて ……。結果としてホーテンスの登場が、常にギスギスしていた親子の関係を改善させたのである。メデタイメデタシ。

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