竹内銃一郎のキノG語録

「ゴースト・ドッグ」に痺れる。大好きJ・J!2021.11.28

今月の5日から、近鉄東寺駅のすぐ近くにある映画館・京都みなみ会館で「ジム・ジャームッシュ レトロスペクティヴ」が始まっている。約40日間にJ・Jの作品12本を上映。わたしはその中の7本を見ているしDVDもあるので、残り5本を全部見ようと時間が空くと出かけて、「ギミー・デンジャー」を除く4本を見る。彼の映画に関するアレコレはこれまで何度もこのブログに書いているが、「ストレンジャー・パラダイス」、「ナイト・オン・プラネット」、「パターソン」がわたしのJ・Jベスト3だったのだが、今回初めて見た「ゴースト・ドッグ」には目ん玉が飛び出すほどびっくり!
「武士道に傾倒し、『葉隠』を愛読するゴースト・ドッグは ~」。これはチラシに書かれていたこの映画の紹介である。主役のゴースト・ドッグ(G・D)は太った黒人の、<らしくない殺し屋>で、彼の氏素性は明らかにされないが、何年か前に自分が殺されかかった時にマフィアに所属していたオヤジに命を救われ、おそらくその男に勧められて殺し屋になったのだ。G・Dはほとんど喋らないのだが、合計したら10度近く、「葉隠」を読むモノローグが流れる。そして、銃を抜いて撃つ練習も日々繰り返しするのだが、その銃の扱い方がほとんど腰に差した刀の抜き方にそっくりで、笑わせる。始まって間もなく、彼は親子かと思わせる年長男と若い女子がいる部屋に入って、おっさんの方を撃ち殺す。それはG・Dの命の恩人が組のボスに頼まれて、彼に指示したものなのだが、実は殺した男は同じマフィアの組員で、女子=ボスの娘に手を出した野郎は許せねえってことで殺しを頼んだのだが、娘の目の前での殺しは彼女の父親の指示であることが容易に想像でき、その事実をうやむやにすべく、<オヤジ>は、ボスからG・Dを殺すよう指示されて …。と、この攻防がメインストーリーである。しかし、
改めて書くこともなかろうが、上記のストーリーはいうならばこの作品の<仮の枠組>に過ぎない。G・Dが住む古いビルの屋上には数十羽の伝書鳩の住まいがあって、彼はその伝書鳩を使って、殺しの要請等、オヤジとの連絡をしている、とか。前述したように、彼はほとんどひとと喋らないがひとりだけ、アイスクリーム屋をやっている親しい友人がいる、しかし、その友人はフランス語しか喋れず、もちろん、G・Dはフランス語などさっぱり分からない、にもかかわらず、ふたりは相手がなにを伝えようとしているのかを理解しあっている、とか。G・Dを撃ち殺そうとするも、逆に肩を撃たれたオヤジが、「俺を殺せ。どっちにしたって俺は誰かに殺されるんだ」と言われても、G・Dは急所を狙わず再度肩を狙って撃つ。とか。G・D冒頭のシーンで会ったボスの娘に「これ読む?」と「羅生門」を手渡され、それをアイスクリーム屋で知り合った黒人の読書好きらしき小学生女子に手渡し、「次に会うときには、この本の感想を伝えてくれ」と言い、ラスト、久しぶりに会った小学生が、「よく分からなかったけど、この中の『藪の中』は面白かった」と、彼に伝え、G・Dはそれを聞いて間もなく死んでしまう、とか。楽しい、面白い、不思議・不可解、切ない等々の雑多な思いが、現れては消え、消えては現れる、この自由自在のJ・Jスタイルがわたしにはたまらないのだ。これが20年前の作品であることにも驚く。だってスンゴク新しい映画だもの!

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