竹内銃一郎のキノG語録

クリント・イーストウッドの新作を見る。2022.01.26

一昨日、九条のイオンモールの5階にある映画館「T・ジョイ」で、クリント・イーストウッドの新作「CRY MACHO」を見る。彼が演じる役は、以前は馬の調教、ロデオの指導等をしていたが、いまは首になって無職。そんな彼に以前の雇い主から、メキシコにいる息子を奪い返してきてほしいという依頼が。その正当性には若干の懐疑があるのだが、クリさんは生活のため(?)、車でメキシコへ。なんとか<頼まれた息子>を奪ってメキシコから脱出しようとするのだが …と、ここらあたりまではなんとなく話がモヤモヤしてすっきりせず、何度かウトウト眠ってしまったが、逃げる途中に入った食堂の女主人とクリさん、なんとなくウマがあって(!)、町の中の馬の調教所で様々な動物に関わる仕事もするようになるのだが、ここいらから楽しくなり、あれこれと危ういことも起こるのだが、最後はめでたしめでたし。
昨日、映画館で買ったこの映画のパンフを読む。幾人かのこの映画批評やクリさん論が掲載されているのだが、いずれも当たり障りのない、まったく刺激されない凡庸な代物。「暗い深遠に立たされる、イーストウッド映画のヒーローたち」というタイトルで書かれている、わたしの好きな中条省平のモノも、「ダーティハリー」ほか数本の映画を紹介して最後に、「イーストウッドはアメリカ的ヒーローの限界を超える、静謐にして奥深い人間像を打ち立てたといえるでしょう」という、どこか放り投げたような文章で締めくくっている。
クリさんが監督した映画は、1971年の「恐怖のメロディ」を最初に、「クライ・マッチョ」まで50年かけて40本! 多分全作見ているわたしの「クリさん作品のベスト5」は、以前にもこのブログに書いたような気もするが、作られた年代順に並べておこう。
西部劇ショーをやっているのだが、客数がどんどん減って経営難に陥り、列車強盗を計画するも …という、笑えて泣ける「ブロンコ・ビリー」(1980)、あちこちで歌を歌いながら少年と旅する「センチメンタル・アドベンチャー」(1982)、黒澤明の「七人の侍」をベースにした(?)「ペイルライダー」、「そうだ。女も子供も殺した。歩いたり、這ったりした者は皆殺しにした」という名セリフが忘れられない「許されざる者」(1992)、以上の作品はいずれもクリさん主演だが、これは主役のショーン・ペン以下、ワンシーンのみの出演者も含め全員が名演技を見せてくれる「ミスティック・リバー」(2003)。プラスもう一本を挙げるとすれば、クリさんが最後に殺されてしまうところから、多分ほとんどのひとが、もちろんわたしも、彼の出演作はこれが最後になるだろうと思われて泣いてしまった「グラン・トリノ」(2008)。
久しぶりに出演した「運び屋」(2018)では、クリさんの年齢相応の役を演じていたので、ああ、やっぱり歳をとったなあと思ったら、ヨロヨロ歩き等はみな演技に過ぎず、実際の彼はテーブルくらいは片手をついて簡単に飛び越えるというのでびっくりしたのだが。「CRY MACHO」で彼が演じた人物は、実年齢は明らかにされていないのだが、わたしの推測では60+数歳、でもその歩きぶり、そして声の具合はどう考えても90過ぎの老人そのもので …。この映画が彼の最後の作品になるのは寂しい。若い男女の恋愛モノで最後を飾ってほしい、というのがわたしのクリさんに対する最後の要望だ。

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