竹内銃一郎のキノG語録

名人上手が続々登場!「83歳のやさしいスパイ」に感動する!2022.02.14

昨日の朝6時、久しぶりにTBSチャンネル2で「落語特選会」を見る。今回の演目は六代目三遊亭円生の「がまの油」。設定されてる時代はいつなのかは分からないが、全30数分の前半は、夜店等で行われていた様々な見世物、「ろくろ首」、「お化け屋敷」、「おおいたち=大板血」等々を、後半は「がまの油売り」を見せる。どれも本物の匂いを漂わせるところが名人の名人たるところで、それが面白さおかしさを倍加するのだ。以前にも書いたが、彼は、現在のこの国のあらゆる分野にもうひとりとしていない文字通りの名人で、そのことを改めて確認させられた。さっきWikで知ったのだが、1900年9月3日生まれの彼は、この演目を演じた1979年の9月3日に亡くなったのだとか。アララ。生まれた日と亡くなった日が同じひとと言えば、小津安二郎。彼は1903年12月12日生まれで1963年の12月12日に亡くなっている。やっぱ「名人」の人生は特別なんだな。
これを「名人芸」と評するのはいかがなものかだが、素人とはとても思えない見事な<演技>を見せる老人が次から次へと登場する映画、先日録画したものを見た「83歳のやさしいスパイ」は、紛うことなき傑作だ。これがドキュメンタリーであることは分かっていたが、おかしなことに、見ているうちにわたしはそれを忘れてしまっていた。
探偵社の面接試験に合格した82歳の老人が、老人ホームに入居する。老人ホームにいる母親が、同居しているひとから金品を盗まれたり、介護人にいじめられているような気がするからその証拠を見つけ出してほしいと、探偵社にその「母親」の家族から依頼があり、前述の82歳氏はその真相調査のために入居したのだ。
この老人ホームの入居者は4,50人ほどだろうか(いや、もっと?)。そのうちの9割以上が女性で、つまりほとんど男性がいないためでもあろう、82歳氏は瞬く間に入居者たちの多くと親しくなるのだが、それぞれがとても魅力的で個性的。自分は未婚者でSEX未経験者だと告白する女性、彼と話しているうちに、「わたしは一日経つともう昨日のことを忘れるの」といって泣き出す女性、見事過ぎる自作の詩を読んで聞かせる女性、ほとんど会いに来てくれない家族(を演じるホームの職員相手)に、さみしくて、半泣きしながら毎日のように電話する女性、等々。そんな女性たちに82歳氏は、まるで上級カウンセラーのような見事な対応を見せ、そのことがさらに<関係>を深め、認知症かとも思われた「電話の女性」は、笑顔で対応するようになったりするのだ。そんな彼らの会話・やりとりが、まるでよく出来たシナリオをもとに、数多の映画賞を受賞している名監督の演出から生まれているかのように思え、だからそれで、感激のあまり(?)途中で、これはドキュメンタリーであることをわたしは忘れてしまったのだ、きっと。
この、現在のわが国では滅多にお目にかかれない、「知的」と称するほかないこの映画の監督は、マイテ・アルベルディと言う名の、推定年齢35歳の美人女性であることをWEBで知る。知的で美人なのだ、なんだか「ありがたや」って感じ!! 

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