不可解かつスリリングで笑いもたっぷり⁈ 小津安二郎の「麦秋」の冒頭について①2022.02.23
WOWOWでの放映を録画した、小津安二郎の「麦秋」を見る。これを見るのはおそらく10数年ぶり? 小津映画の中では、「晩春」「東京物語」「お早う」と同様、この映画は幾度も見ていて、この4作はいづれもわたしの戯曲で一部を引用している。「麦秋」は、A級MissingLinkに依頼されて書いた「Moon guitar」(2014年)で、中国人のヤクザと彼の愛人が「麦秋ごっこ」と称して、菅井一郎&東山千栄子演じる老夫婦が公園のベンチに座り、青空を見上げながら語る「名台詞」の真似をするシーンがある。
久しぶりに見てこの映画のあまりの面白さに驚く。話はいたってありきたりなのに。前述の夫婦と笠智衆演ずる息子夫婦&彼らのふたりの息子、それに、原節子演じる笠の妹と、あわせて7人の家族にまつわるあれやこれやが語られる中で、原節子の結婚にまつわる話が全体の核となっている。しかし、以前に見た時にも仰天したが、今回もこの映画の冒頭のシーンに唖然とする。特別のことがおきるわけではない。しかし、カットの繋ぎが、他ではあまり見たことがない、異様というよりそれはなんとも素っ頓狂で⁈
波が静かに押し寄せる海辺を犬が速足で歩くシーンからこの映画は始まる。次に、おそらく海の近くに建っているのであろう家の窓のところに鳥かごが吊るされていて、その背後には木々に覆われた山(丘?)が。ラジオからであろう、タイトルは知らないが聞いたことのある音楽が流れる中、鳥かごの中の鳥の鳴き声と共にカットが変わると、鳥かご二つが置かれた縁側、2,3秒でカットが変わると、部屋の中央あたりに菅爺が座って小さなすり鉢を擦っていて、彼の手前にも鳥かごが。次のカットは同じ部屋を引き気味に撮ったもので、菅爺のバックには窓が閉じられた隣の家が見える。そこへ、下手・手前から笠の息子の小学5,6年生と思われる長男くんが現れ、「おじいちゃん、ご飯」と言い、菅爺は「お早う」と返答、「おいでよ、早く」「ああ、行くよ」と気さくなやりとりがあって、長男くんはまた下手に消える。いまは朝なのだ。それにしても、方向は違えど菅爺のバックに隣の家と山が並んでいるかのように見えるのは???!
シーン変わって。手前にその実態が不明な部屋があり、その奥の台所と思われる部屋で三宅邦子が立ってなにか仕事をしているところに、手前・上手から、階段から降りて来た(と思しき)長男くんが現れ、「言ってきたよ」と言って彼女に背を向けると、「ちょっと、これ持ってって」と、三宅は大きめの茶碗を彼に差し出し、それを受け取った長男くんは手前・上手にあると思しき部屋の襖の間に消えると、カット変わって、画面中央、お膳(座って食事するテーブルのこと)の向こう側に座って原節子が朝ご飯を食べているところに、上手から長男くんが現れ「おこうこ」と三宅から渡された茶碗を原に差し出し、原の「ありがとう」という言葉と共に、彼がお膳の上手側に座る。このふたりの部屋の奥の部屋では、笠が立ち上がってワイシャツ着て首にネクタイを巻いている。「いさむちゃんは?」と原が言うと、長男は少し振り返って「いさむ!」と大声で叫び、それに応じて原も「いさむちゃん! いさむちゃん!」と大きめの呼び声。シーンが変わって、画面奥のおそらく息子二人の部屋であろうとところから、半ズボンをずり上げながらまだ眠そうな次男くんが現れ、廊下をゆっくり数歩カメラに向かって前進し、手前・上手に消えると、シーンは食事するふたりの部屋に変わるのだが、前の同シーンとは違い、カメラの手前に背を向けて座る原が、下手側に長男くんがいて、そこに、画面上手=彼の右手側に消えたはずの次男くんが下手側=画面左側から登場して、原の対面側に座るのだ⁈ ありきたりであろうこの家の朝の風景シーンは5分ほどだが、ここまでまだおそらく2分足らず。まだこの文章よりも多くの文字・文章が書けるだろうか?
とにかく今回はここまで。