竹内銃一郎のキノG語録

「おみおくりの作法」について② 「序破急」の構成に…😱2022.08.05

物語の最後に、ジョンが44歳だと知らされて驚く。50を幾つか過ぎた年齢に見えたので、彼が勤務先をクビになるのは定年(55歳くらい?)間近だからでは? と思っていたからだ。Wik調べで、演じるエディ・マーサンがこの映画に出演した時の年齢も44歳だったこと、そして俳優としてはかなりのキャリアがあることを知り、これにも驚かされる。ケン・ローチの映画の出演者たちと同様、映画出演の経験などほとんどない、素人俳優だと思っていたからだ。何故? 芝居が下手だからではなく、黙々と与えられた仕事をこなすその様が、本物の小役人のように思えたからだ。そしてさらに驚いたのは、終盤、死者の写真で見た娘とデートの約束をし、多分、彼女へのプレゼントであろう買い物をして店から出てきたときの顔つきが、それまでとはまったく別物の、彼女とはほとんど年齢差のない、40前後の独身男性に見えたからだ。そして、そのすぐ直後、買い物をした店を出て前の通りを渡ろうとしたその時に車にはねられるのだが、仰向けに横たわった彼の頭の脇、耳、唇から、少しではあるが血が流れ出ていて、にもかかわらず、彼は、これまで一度も見せたことのない、実に幸せそうな笑顔を見せているのだ。だから、かなりの重傷ではあっても、まさかこれで亡くなるとは …😮
「おみおくりの作法」はまさに序破急的な構成となっている。(雅楽は)「序」が無拍子かつ低速度で展開され、太鼓の拍数のみを定めて自由に奏され、「破」から拍子が加わり、「急」で加速が入り一曲三部構成を成す(wikより引用)。即ち、ジョンが上司に「あと3日でクビ」と言われるところまでが「序」、住んでいる町を離れて、ビリーの知り合い=葬儀の参列者を求めて旅に出、これまで触れることのなかったひとやものとの新鮮な出会いが「破」、そして、ビリーの娘のケリーと過ごすわずかだが、彼にとって夢のような時間が「急」ということになろうか。それぞれの長さがほぼ30分前後だというのにも感嘆させられる。
これが最後の仕事である。葬儀の参列者をひとりでも多くと考えたのだろう、亡くなったビリー・ストークが出入りしていたのではと思われる、町のビリヤード場や飲み屋等に出かけて、ビリーの知り合いを探すが見つからない。改めて、ビリーの部屋にあったアルバムを見てみると、中にフィルムがあって、それを現像してみると、その中に一枚、パン工場の帽子を被った男と一緒に写った写真があり、それから、ビリーはこのパン工場で働いていたのでは? と電車に乗って、ジョンはその工場のある街に出かける。この工場で、ビリーと親しかった男から、ここを辞めて彼が飲み屋で知り合った女のところへ引っ越したことを聞き、ジョンはそのビリーが惚れた女性が住む町へ。電車やバスでの彼の移動距離は、映像を見ている限りでは、京都を出発地点だとすると、せいぜい奈良や大阪へ出かける程度かと思いきや、地図で確認すると、それぞれ数時間はかかりそうな距離である😮
ビリーが同棲していた女性は、「フィッシュ&チップスの店」をやっていて、ビリーも仕事を手伝っていたのだが、彼女に手を出した男に暴力を振るって刑務所へ。それからは、ほとんど店の仕事などせず、何年かして家を出て行ったという話を聞かされる。驚くべきことがひとつ。彼女とビリーの間には、20歳前後かと思われる娘がいて、その娘にはビリーの孫にあたる赤ちゃんがいるのだが、ビリーは彼女の妊娠を知らずに、家を出て行ったのだ。前述のパン工場の男もこの店の彼女も、ビリーの葬儀への参列要請には、別に彼が嫌いだというより、生活苦もあるのだろう、仕事を休んでまで出かける気には …、と、語る当人も切ない答えしか …🤒🤒

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